梅棹忠夫(うめさお ただお)さんが書かれた「情報の文明学」という本があります。
氏が約40年前に発表した「情報産業論」という論文や、それに対する各界からの反応、およびその後20年が経ってから発表した「情報の文明学」「情報の考現学」という論文をまとめて書籍にしたものです。
インターネットなど無かった(一般的にはなっていなかった)時代に書かれた論文ですが、今読んでも何の遜色もなく、「情報」の本質を鋭く説いている本です。
今回は、この本を引用しながら、企業における情報化について考察したいと思います。
書籍名:情報の文明学
著者 :梅棹忠夫
発行所:中央公論新社
※本文中で『・・・』は、引用した部分です。
『情報が環境を形成しているという点では、情報は文化に近い』
『文化も情報も空気に似ている。あるいは酸素に似ている』
『情報は、基本的には無益無害である』
情報を経営資源として捉える考え方は、情報を活用すれば利益をもたらすことができる、というものです。
しかし、情報そのものに価値があるのではなく、情報はその組織を形作る一つの要素であり、普通に存在しているものである、と捉えることができます。
では、情報は企業活動に役に立たないものなのでしょうか?
『文化は個々の人間にとっては、すでに存在する環境である。あるいは与えられた環境である』
『個人は、その環境としての文化から自由になることはできない』
『しかし、それにはたらきかけて、なにかをなすことはできる』
情報が価値を持つためには、個人が情報に働きかけることが必要になります。つまり、個々人(社員)の情報に対しての感性を高めることが、情報に価値を与えることにつながります。
そして、個々人(社員)はその環境を選べないのですから、組織環境を整備できる経営者が情報に関する環境整備を進めなければならないことになります。
『文明の進歩とは、ひとつの可能性が確立されたとき、あたらしい活動がはじまるのである』
環境が整備され個々人の情報に対する感性が高まると、そこから新たな活動が生まれることになります。そして、新たな文化(社風)が作られ、更に新たな活動が生まれ、というスパイラルが生まれてくるのだと思います。
こういった活動の連鎖が、経営を革新し続ける企業には必要になります。
『情報の存在は、それを蓄積し伝達するための媒体をひきだす』
『情報媒体が情報の発生をうながす』
『情報は人間の装置、制度、組織に、いっそう根本的な変革をもたらすであろう』
こうした情報環境ができると、情報を蓄積し伝達するための媒体(手段)が必要になります。現在であれば、ITを上手に使用するということになると思います。そして、優れた媒体を使用することで、新たな情報を発生させるというスパイラルが生まれます。
こうした情報発生スパイラルは、上記した活動の連鎖を更に活性化させることになり、企業が大きく生まれ変わることにつながります。
企業の情報化とは、経営を革新していくための社風(土台)を作り出すことだと言えます。ITというすぐれた道具のおかげで、経営革新のスピードが速まっていることや、ITを利用して経営革新ができる企業とそうでない企業間の格差が大きくなっていること、の理由がこの本から読み取ることができます。
『人類の産業史の3段階を、農業の時代、工業の時代、精神産業の時代と名づけた』
『それぞれの時代は、有機体としての人間の機能の段階的な発展ともかんがえることができる』
『農業の時代は、・・・消化器官系の機能・・・』
『工業の時代は、・・・筋肉を中心とする・・・』
『精神産業の時代は、・・・脳神経系であり、あるいは感覚器官である』
企業の成長・発展も同じような道をたどるのではないでしょうか。
まずは、食うためにお金を稼ぐことから始まります(消化器官の発達)。創業者の強い意志で、がむしゃらに邁進して、事業基盤を固める段階です。
次に、事業を成長させるために足腰を強めることを行い、他社との差別化を図っていくことになります(筋肉等の発達)。この時期は、設備など物への投資が中心となる段階です。
そして、社内を整備して強い企業へ発展させることになります(脳神経系の発達)。社内での情報伝達が的確に行われ意思決定がスピーディーになる、クレームなどから学習する組織運営がなされている、顧客や市場の真のニーズを的確に把握して変化への対応ができている、などの段階です。
『工業の時代においても、農業はきえてなくならなかった』
『おなじように、精神産業の時代にはいっても、工業はなくなることはあるまい』
『あたらしい産業の進展につれて、ふるいものの相対的な重要さがへってゆくだけである』
企業が成長・発展しても、創業時の精神を忘れることなく伝えることは重要なことです。また、本業への投資も怠ることなく実施しなければ、体力が衰えてしまいます。
それらを続けながら、新たな段階へ移るための投資や環境整備を行ってくことが必要です。
『コンピュータは、人手の省力化ではなく、人間の作業能力の飛躍的な拡大をもたらした』
ITを省力化のための道具と考えるのは、工業の時代の考え方です。これはこれで重要なことです。
しかし、精神産業の時代(強い企業への発展)には、プラスの発想が必要になります。
企業を人間の体に例えると、脳は経営陣ということになり、必要な情報を集め的確な判断をスピーディーに行うことが求められます。また、いろいろな情報を収集する器官(目、耳、鼻、舌、皮膚)は社員ということになり、ちょっとした違いも敏感に感じることのできる感性が求められます。そして、それを伝達するための神経網としてITをフルに活用することになります。
こうしたIT活用を実現するためには、「強い企業へ変わる」という強い意識を経営陣も社員も持たなければなりません。
このように考えると、ITは単なる省力化のための機械ではなく、企業の体質を変えていくための道具に成りえます。そして、そのためには人間の感性や意識の向上が不可欠であることに気付かされます。












